大腸ポリープ
概要・原因
大腸ポリープとは、大腸の内側にできる、イボのような粘膜のでっぱりを言います。 大きくわけて腫瘍性と非腫瘍性がありますが、狭い意味では、前者のうちの「上皮性腫瘍(良性の腺腫と、悪性のがん)」を指します。また、大腸の腫瘍性病変は、でっぱっているものだけでなく、0.2~2%程度は、平たくて凹んでいるタイプのものもあります(平坦陥凹型)。 腺腫は、大腸上皮(腺管)が腫瘍性に増殖したもののうち良性のものを言い、大腸ポリープの約8割を占めます。大腸がんは、もともと大腸がんとして発生するもの(de novo)の他に、この腺腫を含む前がん病変(がんの前段階の病変)と言われる良性病変から進展するものがあり、数的には後者が多いとされています。
大腸ポリープからがんへの進展経路
「前がん病変」から、がんへの主な進展経路には、
①腺腫から進展するadenoma-carcinoma sequence
②traditional serrated adenoma(TSA)やsessile serrated adenoma/polyp(SSA/P)
などの鋸歯状ポリープから進展する serrated pathwayの2つがあり、腺腫,TSA, SSA/Pの担癌率はいずれも約10%で、同程度の発癌ポテンシャルを有すると考えられています。 他の経路には、
③Peutz – Jeghers症候群や若年性大腸ポリポーシスなどのがん遺伝子あるいはがん抑制遺伝子の変異を背景に発生した過誤腫性ポリープ
④潰瘍性大腸炎やクローン病、結核に関連したdysplasia(異型性)からの発がん経路(colitic cancer)
などがあります。 大腸ポリープは、統計的に、5mm以下のものでは約0.5%、6~9mmのものでは約3.3%、10mm以上のものでは、約28.2%にがんが見つかり、大きくなるにつれて、がんである確率が上昇していきます。 そして、大腸がんの主要な経路は、①、②のポリープからがんに進展する経路ですので、小さいうちに、あるいは腺腫、鋸歯状ポリープのうちに、大腸ポリープを切除してしまうことで、大腸がんを予防することが可能です。
大腸ポリープの危険因子
大腸の腺腫性ポリープの最大の危険因子は、年齢(50才以上)および大腸がんの家族歴です。親兄弟が大腸内視鏡(大腸カメラ)を受けて、大腸ポリープがあると言われた方は、早めに検査を受けて頂いたほうがよく、特に大腸ポリープが多発している方が多い家系や、大腸がんの方が多い家系の場合には、家族性・遺伝性腫瘍(大腸ポリポーシス・リンチ症候群)のことがあるため注意が必要です。欧米では、一親等に大腸癌の血縁家族の方がいると、自分の危険度が3倍近くになるというデータもありますが、症状のない45歳以上の日本人を対象にした研究においても、一親等に大腸癌の血縁家族の方がいると、はじめての大腸内視鏡検査で大腸癌が見つかる確率は5.5~7%程度あるという結果であり、家族歴のない人に比べて3~5倍発症しやすいと試算されています。また、年齢に関しては、50歳以上が特に危険因子とされていますが、統計上は40歳近くから増加が顕著となってきていますので、40歳となった時点(可能であれば30代のうちに)で大腸内視鏡(大腸カメラ)検査を受けておくのが理想です。
信頼性が高い海外論文により確実視されている他の危険因子については、赤身肉(特にウィンナーなどの保存・加工肉の過剰摂取)、高カロリーな食事習慣、肥満(運動不足)、過量のアルコール、喫煙があります。逆に、運動不足の解消などの生活習慣の改善により、発生率を低下させられる可能性も示唆されていますが、効果は限定的であるとも考えられています。また患者さんの中には、遺伝性大腸がんという、家系的に大腸がんになりやすい方がおられ、特に、①大腸にたくさんのポリープができる場合(家族性ポリポーシス)、②家族内に大腸がんや関連する多臓器がんを多く発生する場合(リンチ症候群)などの場合に疑われます。よって、血縁家族に大腸ポリープや大腸がんと診断された方がいる場合には、年齢が若くても、積極的に検査を受けることがすすめられています。
大腸ポリープの症状
小さなポリープは無症状で、発見されているポリープのほとんどが大腸内視鏡(大腸カメラ)検査で偶然に発見されています。 大きなポリープでは、時に出血や粘液便、腹痛、便通異常などをきたす場合がありますが、症状が出ること自体はかなり少なくなっています。
大腸がんになる可能性のあるポリープをより早期に発見するためには、症状がないうちでも大腸内視鏡(大腸カメラ)検査を中心としたがん検診を受けることが重要です。
大腸ポリープの検査-大腸内視鏡検査
大腸内視鏡(大腸カメラ)による検査で、ポリープの形態、表面の性状、色調、大きさなどの診断が可能で、同時に組織診断(顕微鏡での診断)のための、生検や内視鏡治療(切除)も行うことができます。 当院では、特殊光(NBI)と拡大内視鏡を用いた検査で、より精度の高い検査を行っています。
<大腸腺腫(左)> <鋸歯状腺腫(右)>
<過誤腫性ポリープ(左)> <側方発育型大腸腫瘍(右)>
<大腸癌(早期癌)>
<大腸癌(進行癌)>
大腸ポリポーシス
一般に大腸のポリポーシスとは、大腸全体に100 個以上のポリープが認められる状態をいいます。原因には遺伝性のもの(遺伝性ポリポーシス)と非遺伝性のものがあり、さらに腫瘍性のポリポーシスと非腫瘍性ポリポーシスとにわかれます。
<自覚症状>
一般に症状はなく、便潜血陽性などを契機に施行した大腸内視鏡検査で偶然発見されることが多くなっています。年齢が進み消化器がんが発生するようになると下血、下痢、腹痛などがあらわれます。
<ポリポーシスをきたす主な疾患の特徴>
1. 家族性大腸腺腫症(Familial Adenomatous Polyposis : FAP)
腫瘍性である腺腫性ポリープが100個以上、大腸全体にびまん性に発生します。常染色体優性遺伝疾患ですが、FAP の方の約 3 割は 明確な家族歴を認めません。100個程度(非密生型:AFAP)発生する場合から、粘膜面を覆いつくす状態(密生型)まで広範囲に拡がって発生する場合があります。放置すると40歳までに約半数の方に、60歳までにほぼ100%の方に大腸癌が発生するため、ポリープの徹底切除または予防的な大腸全摘手術が検討されます。100 個以下の場合、AFAP と MUTYH関連ポリポーシス(MUTYH-associated polyposis;MAP)の鑑別が必要となりますが、MAPは常染色体劣勢の遺伝性疾患です。FAP、MAPともに、大腸以外に胃癌、十二指腸癌、小腸癌などを合併したり、消化器以外の腫瘍が生じることがあるため、慎重な経過観察が必要です。
以下は当院で経験されたFAPの一例です。
2. Peutz-Jeghers症候群
LKB1/STK11遺伝子による常染色体優性遺伝ですが、約半数は孤発例です。食道を除くすべての消化管に過誤腫性ポリープが発生します。口唇、口腔内、指先などに黒褐色の色素斑(しみ)を伴うことが特徴的です。臨床的に小腸ポリープによる腸重積の発症が問題で、9歳以降に増加し、20歳までに50%に発症するとされています。他に消化管、膵臓、乳腺、生殖器の悪性腫瘍を20歳までに1~2%が発症するリスクがあります。
3. 若年性ポリポーシス
主にがん抑制遺伝子であるSMAD4遺伝子やBMPR1A遺伝子の変異などにより生じ、若年性ポリープが胃・大腸などに多発してみられます。本来、若年性ポリープは非腫瘍性ポリープですが、本疾患では胃癌、大腸癌の合併が多くなっていますが、密生したポリポーシス内の癌を早期に発見するのは非常に難しいことが問題です。
ポリポーシスには、他にもCowden病やCronkhite-Canada症候群などのまれな疾患の他、炎症性腸疾患などにより後天的に発生する炎症性ポリポーシスなどがあります。
Sessile serrated lesion (SSL)
1. Sessile serrated lesion(SSL)
Sessile serrated lesion(SSL)は、BRAF変異、CIMP(CpG island methylator phenotype)などの分子異常を伴い、おもにMLH1のメチル化によりmicrosatellite instability(MSI)型大腸がんへ進展する腫瘍性病変で、serrated neoplastic pathwayは大腸がんの15~20%程度とされています。右側大腸の白色調で扁平な病変が多いとされており、腫瘍性異形のない過形成性ポリープとは、粘液付着の有無や拡大観察における開II型pitの有無が鑑別点となります。また、SSLを有する症例では、SSLの癌化に加えて、他の経路からの大腸がん発症のリスクが高いことがわかっています(14-16)。
2. Sessile serrated lesion with dysplasia(SSLD)
異形を有するSSLをいいます。SSLの癌併存率は1~2.8%とされ、病変内に隆起や発赤を呈していることが所見として重視されています。NBI拡大観察でJNET Type2B以上、あるいはCV染色拡大観察でのV型pitが診断に有用です。
3. Superficially serrated adenoma(SuSA)
組織学的に管状の腺腫様腺管から構成されていますが、表層に限局して鋸歯状構造を伴うものをいいます。S状結腸から直腸に多く、褪色または正色調の、無茎性または平坦型の病変となります。KRAS変異およびRSPO融合/過剰発現などの遺伝子異常を伴っていて、TSAの前駆病変とも考えられています。
治療
がん化しうるポリープは発見次第切除することが望ましく、 小さい段階で腺腫性ポリープを切除することで大腸がんによる死亡率を低下させることができます。日本のガイドラインでは、5mm以下のポリープに関して、即座に切除せずに経過観察する選択肢も許容されていますが、経過観察していく手間があること、観察中に増大していけば結局切除が推奨されること、患者さんが精神的な負担を抱えたままであること、小さなポリープが次の検査で発見できない可能性があることなどの理由から、実務では小さくても発見次第切除することが多くなっています。
内視鏡を用いた日帰り手術
腺腫性ポリープと、リンパ節転移の危険性がほとんどない大腸がんについては、内視鏡による治療により治癒可能です。治療の方法は、病変の形(肉眼系)や大きさにより使い分けられ、ポリペクトミーや、粘膜切除術(EMR)、粘膜下層剥離術(ESD)などの方法があります。このうち、外来で施行可能なのは、ポリペクトミーとEMRで、当院では切除に際して後出血や穿孔などの合併症がより少ないとされるコールドポリペクトミー(電流を使わずにポリープを切除する方法)を採用しています。 また検査同日の日帰り治療をしており、検査と治療を別々の日にすることはありませんが、外来で安全に内視鏡治療を行うために、ポリープの大きさは20mm程度までをひとつの目安としています。
入院が必要なケース
サイズが大きすぎるなどの理由で外来での切除が危険と判断される場合や、抗血小板薬・抗凝固薬などの血液をサラサラにする薬を止めることが難しい方などでは、入院可能な専門施設をご紹介させて頂いております。
手術の合併症と注意事項
ポリープ切除による主な合併症は、出血(術中出血、後出血)と穿孔ですが、穿孔は大きなポリープに対するEMRやESD治療などに関連した合併症であり、外来切除で実際問題となるのは後出血です。後出血は、検査治療後に自宅に戻ってから治療部位より再出血をすることをいい、0.3~1%程度でおこりますがゼロにできない事象で、とても低い確率ですが必ずどなたかに起こってしまいます。後出血は術後安静を保っていたとしても起こりえますが、腹圧をかける運動や動作、アルコールや刺激物の摂取などでより誘発されやすくなります。出血が疑われる場合には内視鏡による再検査・止血術を考慮します。ほとんどが自然止血するので検査なしでも事なきを得ることもありますが、安静期間を延長し、状況によっては入院治療を検討することもあります。ポリープを切除した場合には、これらの合併症予防の観点から、1~3日間程度は運動・飲酒・遠出の外出を控えるようお願いすることがあります。