感染性腸炎とは
細菌・ウイルス・寄生虫などの微生物が体内に入り発症する病気の総称をいいます。症状は菌の毒性や体内の反応によって軽症から重症まで様々ですが、一般に下痢や吐き気・嘔吐、腹痛、発熱、血便などを伴います。微生物に汚染された食品を食べて発症する、いわゆる食中毒もこの中に含まれます。
原因
細菌、ウイルス、寄生虫が原因となりますが、食中毒の起因菌としては、統計的にキャンピロバクター、ノロウィルス、サルモネラ、腸管出血性大腸菌、腸炎ビブリオの順に多いとされています。
原因菌により潜伏期が異なるため、それを踏まえた食事歴をお尋ねし、下痢の回数、性状、血便の有無、処方歴(抗菌薬、鎮痛薬)、海外渡航歴、家族内の発症状況などから総合的に原因菌を推定していきます。
鶏肉はキャンピロバクター、牡蠣はノロウィルス、魚介類は腸炎ビブリオ、鶏卵や牛肉はサルモネラを想定します。特に焼き鳥を食べた後のキャンピロバクター腸炎は日常診療で非常によく経験され、よく火が通っているように思えても、まな板や包丁を介して感染する例があります。タイやインドネシアからの帰国者の下痢では赤痢アメーバの感染例がよくみられます。ノロウィルスでは調理者から食品への二次汚染や、感染者の吐物や糞便を介してうつることが多くなっています。
細菌性腸炎の診断は便培養によりますが、すぐに結果がでないため、初診時においては最も疑わしい感染症を想定して治療を開始することになります。ノロウィルスは糞便抗原検査が、3歳未満65歳以上の方のみ健康適用されていますが、感染していても陽性とならない場合があるため、ノロウイルスに感染していないことを確かめることはできません。
<キャンピロバクター腸炎>
治療について
食事は症状次第で最低限として、飲水可能な例についてはOS-1やポカリスエットなどの経口補水液で対応しますが、強い脱水においては点滴での補液が必要となるため入院管理を考慮します。一般的にまず整腸剤、乳酸菌製剤や制吐剤を考慮し、原則として下痢止めは使用しません。
細菌性の食中毒では、多くは対症療法のみで自然に軽快するため,抗菌薬を必要とする例は限られますが、高齢者や免疫力の低下したケースかどうかや、微生物の菌種などの個々の事情を考慮して投与するか判断します。比較的重症の市中感染の下痢症に対する抗菌薬投与は、罹病期間を平均 1~2 日短縮させる可能性があるため、渡航者下痢症、細菌性赤痢、コレラ、サルモネラ腸炎、早期のカンピロバクター腸炎、チフス、パラチフスなどにおいては使用されます。原因菌が不明の段階では、ニューキノロン系抗菌薬もしくはホスホマイシンが選択されます。
原因菌によっては、以下のような重篤な合併症を引き起こす腸炎があります。
- 腸管出血性大腸菌(EHEC)の志賀毒素によって引き起こされる溶血性尿毒症症候群(hemolytic uremic syndrome:HUS)
- サルモネラ腸炎による敗血症
- カンピロバクター腸炎後の急性免疫性ニューロパチー(Guillain-Barre Syndrome:GBS)
- ボツリヌス菌による球麻痺・眼症状
- アメーバ性腸炎による肝膿瘍 など
ノロウイルスの感染が疑われる場合には、トイレなどの使用に気を付け手洗いや次亜塩素酸での消毒をしっかり行い、タオルなどの共有をしないよう心がける必要があります。
下血を伴う場合や、下痢が長引く場合には、大腸癌や潰瘍性大腸炎などを鑑別するため、診断のための内視鏡検査(大腸カメラ)が必要になります。
抗菌薬起因性腸炎
「出血性腸炎」と「偽膜性腸炎」に大別されます。
急性出血性大腸炎は、主としてペニシリン系薬剤抗菌剤の服用数日後に、下行結腸から横行結腸を中心とした区域性の炎症病変が出現し、突然の腹痛と血性下痢をきたす腸炎です。原因となる抗菌剤の中止により比較的短期間に改善します。原因はアレルギー説や菌交代説(とくにKlebsiella oxytoca)が有力説です。
当院の診療
当院では緊急度が高い場合、当日または翌診療日までに内視鏡検査(胃カメラ)、腹部CTを行い、大腸カメラについても極力柔軟に対応しています。 緊急の場合には電話予約をおすすめしますが、WEB予約についても24時間対応可能です。 お困りの症状があれば、お気軽にご相談ください。