潰瘍とは、病理学的に深い傷のことをいい、浅い傷はびらんと呼びます。
食道潰瘍で多い原因は、胃酸逆流による逆流性食道炎に伴うものです。この場合、多くは胃と食道のつなぎ目から連続的な炎症がみられるので、診断は比較的容易です。原因の多くは胃液が食道内に逆流、停滞することで、制酸薬などを適切に使用することにより治癒が得られます。
食道の潰瘍にはその他に、内服した薬剤(抗菌薬、解熱鎮痛薬、抗凝固薬)などが食道内に停滞し化学的な炎症が惹起されることにより生じる薬剤性食道炎や、強酸や強アルカリなどの腐食性薬剤・腐食洗剤の服用(誤飲)による腐食性食道炎、ヘルペスウイルスやサイトメガロウイルス感染に伴う潰瘍などがあります。
薬剤性食道炎は、薬の内服に際して十分な水分をとらなかったり、内服直後に横になるなどして、薬剤が食道内に停滞することが原因とされますが、食道の運動機能低下によっても生じえます。腐食性食道炎は、洗剤や漂白剤などの腐食薬剤が原因で、小児では誤飲、成人では自殺目的によるものが大半を占めています。腐食作用のある薬剤だけでなく、時に多量の熱湯を飲むことでも同様の病態となりえます。腐食性食道炎は広範囲に潰瘍が広がる場合が多く、治療に難渋する上、治癒とともに潰瘍の瘢痕が狭窄して食べ物の通りが悪くなる上、瘢痕部から癌が発生することがあり、手術で食道全摘を余儀なくされる例もあります。ウイルス性食道炎では、真菌や特殊なウイルス感染が原因となり、背景として時に免疫力の低下がみられることがあります。