除菌後胃癌④(胃内視鏡/胃カメラ)
論文要旨の解説を致します。
背景
ピロリ菌現感染で胃がん治療された方は、その後の除菌治療により異時多発(胃内の胃癌がん再発)が抑制されることが既報により示されていますが、除菌後に発生した胃がんの異時多発の頻度については、これまで報告がありませんでした。本邦では除菌治療が保険収載されており、今後は除菌後胃がんが増加していくと思われます。そのため、ピロリ菌現感染胃がんと、除菌後胃がんの方の生物学的・腫瘍学的な振る舞いの差を確認することは、胃がんで治療された方のフォローアップ方法を検討する上で、臨床的に必要な情報でした。
方法
内視鏡治療で治癒切除が得られた早期胃がんの方で、治療後2年以上、内視鏡による経過観察をされた方を、①除菌後1年以上経過してから胃がんが発見された群180名と、②現感染で胃がんが発見された群602名の2群に分けて、その後の異時多発に差があるかを、後ろ向きに解析をしました(詳しい患者選択条件は割愛します)。解析にあたり、選択バイアスを最小化するために傾向スコア分析及びIPTW分析を用いました。
結果
傾向スコア分析において2群の異時多発の頻度は統計学的に有意差がなく、IPTW法によっても同様の結果でした。また、除菌後5年未満だった例を除外して解析し直してもなお、結果は同様でした。COX比例ハザード解析では、年齢、分化型がん、初期多発が異時多発の危険因子として抽出され、この結果は既報とほぼ同様であったことから、本結果の頑健性が示されました。
結論
以上の結果から、除菌後胃がんの内視鏡治療後における経過観察は、ピロリ菌現感染治療後のそれと同等程度が望ましいと考えられました。
以上
除菌後胃癌③(胃内視鏡/胃カメラ)
除菌後胃癌に関して、院長が筆頭著者である論文 “Incidence of metachronous gastric cancer in patients whose primary gastric neoplasms were discovered after Helicobacter pylori eradication”が、GIE誌(impact factor 7.204)に掲載されます。
要旨は以下になります。次回、内容をご説明致します。
BACKGROUND AND AIMS:
The incidence of metachronous gastric cancer (MGC) in patients whose primary gastric neoplasm is discovered after Helicobacter pylori (H pylori) eradication remains unclear. Here, we evaluated the long-term effect of previous H pylori eradication on development of MGC after endoscopic submucosal dissection (ESD).
METHODS:
We analyzed prospectively collected data of consecutive patients with successful H pylori eradication more than 1 year before (eradicated group; 180 patients), or after (control group; 602 patients) initial curative endoscopic submucosal dissection (ESD). These patients were also followed by endoscopy for over 2 years. Propensity score matching and inverse probability of treatment weighting (IPTW) were used in order to adjust for confounding variables during data analysis. The main outcome was the incidence of MGC after initial ESD.
RESULTS:
In a propensity-matched analysis of 174 pairs, the incidence of MGC was similar in the two cohorts (33.9 per 1,000 person-years vs 40.8 per 1,000 person-years in the control group, P = 0.454) at a median follow-up of 4.1 years (IQR, 3.0-5.6 years). Incidences were also similar in the 2 groups when data were analyzed using IPTW, even after exclusion of 123 patients with successful H pylori eradication <5 years before initial ESD. Multiple Cox regression analysis revealed age, differentiated-type histology and initial multiplicity were predictors of MGC in patients after initial curative ESD.
CONCLUSIONS:
The frequency of follow-up surveillance after initial curative ESD should be kept constant, irrespective of whether H pylori eradication is performed before or after initial curative ESD.
除菌後胃癌②(胃内視鏡/胃カメラ)
ピロリ菌の除菌後も、胃がんは年率0.1~0.3%程度発生します。このため、定期的な上部内視鏡検査(胃カメラ)が推奨されています。
しかし、同じピロリ菌感染による慢性胃炎でも、胃がんの発生リスクは、人によって異なっています。たとえば、男性の方や、胃粘膜が高度に萎縮している方(ピロリ菌による胃炎の影響を強く受けている方)、胃がん(胃腺腫)の既往のある方、喫煙歴のある方などでは、それ以外の方と比べて、胃がん発生のリスクがより高いと報告されています。
そして最近では、ピロリ菌除菌後における背景胃粘膜の「DNAメチル化レベル」が、胃の発がんリスクと関連するのではないかと注目されており、多施設の前向き試験が行われています。
胃がんをはじめとする、様々な臓器のがんでは、細胞の無秩序な増殖を抑える役割を持った「がん抑制遺伝子」が、突然変異や、メチル化と呼ばれる修飾をうけるなどして不活性化され、がんが発生、成長しています。胃においては、このメチル化が、がんの部分だけでなく、一見正常に見える胃の粘膜でも、色々な遺伝子に蓄積しており、その蓄積の程度と、胃がんの発生リスクが相関していることが、優れた研究により示されています。
将来的に、メチル化レベルの測定がより簡便で安価になれば、リスクに応じた上部内視鏡の頻度・間隔の設定ができるのではないかと期待されています。
除菌後胃癌①(胃内視鏡/胃カメラ)
日本では2013年2月よりピロリ菌に対する慢性胃炎の除菌が保険適用になり、除菌治療が推奨されています。
ピロリ菌の除菌治療をすると、その後の胃がん発生率は38~47%減少するとされ、胃がんの治療後であっても、胃内再発(異時多発)の頻度が33~50%程度減少するとされています。
しかし、逆に言えば、ピロリ菌の除菌が成功しても、胃がんの発生率は半分以下にはなりません。
加えて、除菌後に発見された胃がんは、「胃炎様」であることが多く、がんの表面を、正常な非がん上皮(正常な胃粘膜)が覆ったり、あるいは異型度の低い上皮(ELA)がモザイクに混在しており、非常に発見しづらくなっています。しかも、サイズが小さく、平坦もしくは陥凹型が多いという特徴があります。
写真は、院長が発見した、3mm大の除菌後胃癌です。
通常の内視鏡では病変部位がわかりづらいですが、NBI拡大観察をすると、領域をもった構造異型が確認でき、「微小がん」と診断できます。
スキルス胃がんとは③(胃内視鏡/胃カメラ)
この症例も、院長が発見した未分化型早期胃がんで、学会/論文発表に使用した症例です。
40代女性で、大きさ4mm大の、ピロリ菌陰性(ピロリ菌の感染がない)の方の、未分化型早期胃がんです。
内視鏡治療で治癒切除が得られました。
粘膜面の褪色変化で指摘できる病変で、NBI拡大観察(茶色と緑の写真)では、窩間部開大所見が認識され、良性変化である限局性萎縮のNBI拡大所見とは異なっています。このNBI所見から、ごくごく早期の未分化早期胃がんと診断できます。
このような症例は、バリウム検査や経鼻内視鏡では診断しきれず、経口のNBI併用拡大内視鏡を使用しなければ、その場での診断が不可能な病変です。
スキルス胃がんも、上記病変のような、ごく早期に発見できれば、生命に影響を及ぼさないうちに治癒切除させることができます。
スキルス胃がんとは②(胃内視鏡/胃カメラ)
前記しましたように、スキルス胃がんの多くは、未分化型早期胃がんからの進展ですが、発見するのが難しいのが現状です。特に、背景粘膜の炎症や萎縮程度が強い場合、早期病変の視認はさらに困難となります。
写真の例は、院長が発見した未分化型早期胃がんで、学会総会と英論文で発表/提示した症例です。
この症例は、大きさ8mm程度で、深達度が浅く、結果的に内視鏡治療のみで治癒切除が得られました。病変は、背景の炎症が強く、通常観察からは視認することが非常に難しい病変です。実際、内視鏡学会総会での発表時には、この病変のNBI拡大像(緑・茶色のアップの写真)に関する発表を行いましたが、
フロアの多くの先生方から、この病変はそもそも通常観察で存在を指摘することすらできないと意見されました。
このような胃がんは、比較的まれな胃炎様の未分化型胃がんですが、1年で数百という胃がんを取り扱っている、がん専門病院の専門医でないと、発見するのが非常に難しい病変です。
スキルス胃がんとは①(胃内視鏡/胃カメラ)
胃がんとは、胃液などを分泌する胃粘膜(胃壁の最も内側)の腺組織の細胞から発生するがんを言います。
胃がんのほとんどは、「腺がん」といわれるもので、がん細胞の分化度(顕微鏡の顔つき)により、大まかに分化型と未分化型に分けられます。一般的に、分化型は進行が緩やかで、未分化型はがん細胞の増殖が速いため、進行が速い傾向があるといわれています。検診で発見されるまで大きくなるには、がんが発生してから少なくとも数年は経っているとされています。
スキルス胃がんは、特殊なタイプの胃がんで、胃がんの中で最も悪性度が高く、5年生存率が7%未満というデータがあります。このタイプのがんは、がん細胞が胃の表面にでることなく、壁の中を染みこむように広がっていきます。そのため、相当程度に広がるまで症状が出ないうえに、がん発見のきっかけとなる胃粘膜表面の変化、特に粘膜の凹凸変化が不明瞭なことが多いため、バリウムや内視鏡検査でも、初期病変が見つけにくいという特徴があります。
スキルス胃がんに進展する胃がんは、未分化型胃がんからの進展が多いとされていますが、一部は分化型あるいは分化型と未分化型の混合型からも進展していくことがあります。一方、未分化型胃がんでも、初期病変/早期がんではスキルスとはならず、ある程度の大きさまで、がんは塊のまま一か所で増大し、ある程度の大きさを超えてしまってから、血液やリンパ液に乗って全身に飛び散るようになったり、染み込むような浸潤形式をとっていくようになります。
つまり、未分化型胃がんでも、ごく初期のうちに発見がなされれば、手術で胃を切らなくても、内視鏡治療のみで根治させることが可能です。具体的には、病変の大きさが2cm以下で、潰瘍病変を伴わないうちに発見がされれば、転移のリスクがほぼ0であるため、内視鏡治療で根治できる可能性があります。(つづく)