除菌後胃癌⑤(胃内視鏡/胃カメラ)
ピロリ菌を除菌された方のなかには、除菌をすればもう胃癌にはならないと考えておられる方がいますが、メタ解析では、除菌治療をしても胃癌の抑制効果は約40~50%程度しかないと試算されており、除菌時の萎縮性胃炎(ピロリ菌によって生じた胃炎)の程度によっても差異が生じます。
そして、萎縮性変化が高度に進み化生性胃炎という状態が生じれば、除菌による抑制効果が極めて乏しくなるとされています(point of no return)。
除菌後に生じる、除菌後胃癌の一部は、正常粘膜と区別し難い「胃炎様胃癌」の形をとるものがあり、診断が難しい場合があります。
写真は、院長が発見した除菌後の胃炎様胃癌の症例です。
GIST②(胃内視鏡/胃カメラ)
写真は、当院で経験された比較的まれな十二指腸GISTです。
十二指腸の潰瘍性病変は、他に悪性リンパ腫や、癌が鑑別されます。
この症例では他に転移がなく外科切除が行われました。
GIST①(胃内視鏡/胃カメラ)
胃や腸の壁の中(粘膜の下)にできる腫瘍(粘膜下腫瘍)を粘膜下腫瘍といい、それらには良性の脂肪種・平滑筋腫や、悪性の平滑筋肉腫などがありますが、GIST(Gastrointestinal Stromal Tumor)も粘膜下腫瘍の一種です。GISTの発症率は年間に10万人に対して2人程度と比較的まれで、発生部位は胃が最も多く、小腸(十二指腸含む)や大腸は少ないとされています。発症に性差はありませんが、中高年に好発します。
GIST特有の症状というものはなく、多くは内視鏡検査などで偶然に発見されるため、覚知が遅れることがあります。
粘膜下にできるものではありますが、大きくなって消化管壁の内側に潰瘍を形成して出血をすることがあり、吐下血をきたしたり、それに伴う貧血などが生じることがあります。
診断は病理検査が重要で、内視鏡検査の際に細胞を採取(病理検査)し、免疫組織染色でKIT陽性あるいはDOG1陽性であればGISTと診断されます。
GISTと診断された場合、CT、MRIなどの画像診断をして転移の有無などを確認し、原則的に手術治療がすすめられますが、転移がある場合には先に化学療法が行われ、治療効果が得られてから外科切除となる場合もあります。
鳥肌胃炎②除菌後胃癌⑪(胃内視鏡/胃カメラ)
鳥肌胃炎は、未分化型胃がん(スキルス胃がんなどの悪性度が高いがん)のリスクが高いとされ、注意を要する胃炎です。
胃がんの発生リスクを低下させるためには、ピロリの除菌治療が必要ですが、
除菌後数年たってから、未分化型胃がんが発生する例もあります。
写真は、当院で経験された、鳥肌胃炎で除菌してから数年経過した後に、胃の体部に発生した未分化型早期胃がんです。
(鳥肌胃炎の診断と除菌治療は、他院でされています)
鳥肌粘膜自体は除菌で平定化していますが、体中部に早期胃がんを認めました。
鳥肌胃炎①(胃内視鏡/胃カメラ)
鳥肌胃炎とは、特に胃の胃角部から前庭部(胃の出口付近)にかけて、
ほぼ均一な小顆粒状の隆起が密集して観察されるような胃炎を言います。
以前は小児のピロリ菌感染特有の胃炎と考えられていましたが、若年成人にも観察されます。
病理学的な本体は、リンパ濾胞の増生で、ピロリ菌に対する炎症反応の結果とされています。
写真は、当院で経験された若年者の鳥肌胃炎です。
好酸球性食道炎➁(胃内視鏡/胃カメラ)
好酸球性食道炎の治療には、主にPPIなどの制酸薬が用いられ、これだけで改善する場合があります。
しかし、改善が得られない方については、気管支喘息の方が使用する吸入ステロイド薬を嚥下していただく治療をします。
また、治療後に症状がよくなっても、治療を中止してしばらくすると症状、所見が再燃する場合があります。
写真は、当院での自験例です。
治療前(上)と、治療後(下)です。この症例ではPPIのみで症状、所見が顕著に改善しています。
(顆粒状の変化や、縦・横に走行する溝が、下の写真において、ごく微細な所見を残して概ね消失しています)
好酸球性食道炎①(胃内視鏡/胃カメラ)
好酸球性食道炎は、食べ物などが抗原となって食道上皮に好酸球(白血球の一種)が浸潤し引き起こされる慢性のアレルギー疾患と考えられています。
40歳前後の男性に多く、5000件の内視鏡検査に1例がみられる程度とされてきましたが、最近ではその有病率が増加しています。嚥下障害、食物のつかえ、胸痛、胸やけなどが主な症状です。
内視鏡では、輪状溝、白斑、縦走溝が特徴的であり、長期に炎症が持続する例では粘膜下層に線維化をきたし食道が狭窄する(狭くなって通過障害がおこる)例もあります。診断の確定には、内視鏡検査の際に行われる食道病変部位からの病理組織所見が参考になります。
血液検査では、好酸球やIgEの増加がみられることがあります。
治療には、制酸薬(PPI)を用いますが、効果が不十分である場合には追加でステロイドの局所療法を行います。
最近の研究では、好酸球性消化管疾患患者のピロリ菌感染陽性率が低いことが示されており、日本では非感染者が増加していることから、好酸球性消化管疾患の患者数は増加していくことが予想されています。
写真は、当院で好酸球性食道炎と診断された方の内視鏡写真です。上が通常観察、下がNBI観察のものです。
胃悪性リンパ腫③(胃内視鏡/胃カメラ)
写真の例は、発見の難しい表層型の胃MALTリンパ腫(自験例)です。
一見良性のびらんに見えますが、NBI拡大観察をすると悪性腫瘍が示唆される所見となっています。
胃MALTリンパ腫のNBI拡大観察像では、tree like appearanceが有名ですが、
本症例では、それに加えて未分化型胃癌類似の異型血管が確認されています。
自由が丘消化器・内視鏡クリニック
院長 岡田 和久
胃悪性リンパ腫➁(胃内視鏡/胃カメラ)
胃悪性リンパ腫の症状に、特有のものはありませんが、潰瘍の形成を伴う場合には、胃潰瘍と同じ症状(上腹部痛や貧血)をきたす場合があります。
内視鏡の所見として、潰瘍形成を伴わない「表層型」の悪性リンパ腫については、胃炎との鑑別が難しいため内視鏡による診断が難しいとされています。
胃MALTリンパ腫において、病変が胃に限局していてピロリ菌の感染が確認される場合には、ピロリ菌の除菌が第一選択の治療法となり、これで約80%の方は腫瘍が寛解し、一旦寛解が得られると10年後の生存率は95%近くになります。しかし他方で、除菌が無効な例が20%近くみられ、除菌治療による増悪例も報告されています。
除菌治療が無効な場合や、ピロリ菌陰性例には化学療法や放射線治療が選択されます。
胃DLBCLは進行期であっても治癒が望める悪性腫瘍で、化学療法が主体となり、抗 CD20 モノクローナル抗体(リツキシマブ)併用 CHOP(シクロホスファミド,ドキソルビシン,ビンクリスチン,プレドニゾロン)療法(R-CHOP 療法)(ただし限局期では治療回数を減らし放射線療法を追加)が基本的な標準治療となっています。
写真の例は、発見の難しい表層型の胃MALTリンパ腫(自験例)です。
胃悪性リンパ腫①(胃内視鏡/胃カメラ)
悪性リンパ腫は、血液細胞である白血球(リンパ球)ががん化した疾患です。
全身のどの場所にも発生しうる疾患ですが、消化管に発生するものは全体の5~10%弱とされています。
胃の悪性リンパ腫に関しては、MALT(mucosa – associated lymphoid tissue)リンパ腫、ついでびまん性大細胞型リンパ腫(DLBCL)という組織型が多く、2つで全体の90%以上を占めます。
胃MALTリンパ腫の内視鏡所見は多彩であり、早期胃がんに類似した形態的に認識されやすい形状のものから、「表層型」といわれる胃炎と区別しがたい所見を呈する例もあり、同時に複数の病変が存在する場合もあります。そのため表層型では、エキスパートでも一見して胃リンパ腫であると診断することが非常に難しいケースがあります。
胃DLBCLは、胃の進行がんに類似した形態をとることが多く、粘膜下腫瘍様の立ち上がりを示し、辺縁には不整な所見がない「耳介様周堤」が特徴的です。
悪性リンパ腫の確定診断には、内視鏡での生検(または外科切除標本における病理組織診断)が必要となります。