除菌後胃癌②(胃内視鏡/胃カメラ)
ピロリ菌の除菌後も、胃がんは年率0.1~0.3%程度発生します。このため、定期的な上部内視鏡検査(胃カメラ)が推奨されています。
しかし、同じピロリ菌感染による慢性胃炎でも、胃がんの発生リスクは、人によって異なっています。たとえば、男性の方や、胃粘膜が高度に萎縮している方(ピロリ菌による胃炎の影響を強く受けている方)、胃がん(胃腺腫)の既往のある方、喫煙歴のある方などでは、それ以外の方と比べて、胃がん発生のリスクがより高いと報告されています。
そして最近では、ピロリ菌除菌後における背景胃粘膜の「DNAメチル化レベル」が、胃の発がんリスクと関連するのではないかと注目されており、多施設の前向き試験が行われています。
胃がんをはじめとする、様々な臓器のがんでは、細胞の無秩序な増殖を抑える役割を持った「がん抑制遺伝子」が、突然変異や、メチル化と呼ばれる修飾をうけるなどして不活性化され、がんが発生、成長しています。胃においては、このメチル化が、がんの部分だけでなく、一見正常に見える胃の粘膜でも、色々な遺伝子に蓄積しており、その蓄積の程度と、胃がんの発生リスクが相関していることが、優れた研究により示されています。
将来的に、メチル化レベルの測定がより簡便で安価になれば、リスクに応じた上部内視鏡の頻度・間隔の設定ができるのではないかと期待されています。
除菌後胃癌①(胃内視鏡/胃カメラ)
日本では2013年2月よりピロリ菌に対する慢性胃炎の除菌が保険適用になり、除菌治療が推奨されています。
ピロリ菌の除菌治療をすると、その後の胃がん発生率は38~47%減少するとされ、胃がんの治療後であっても、胃内再発(異時多発)の頻度が33~50%程度減少するとされています。
しかし、逆に言えば、ピロリ菌の除菌が成功しても、胃がんの発生率は半分以下にはなりません。
加えて、除菌後に発見された胃がんは、「胃炎様」であることが多く、がんの表面を、正常な非がん上皮(正常な胃粘膜)が覆ったり、あるいは異型度の低い上皮(ELA)がモザイクに混在しており、非常に発見しづらくなっています。しかも、サイズが小さく、平坦もしくは陥凹型が多いという特徴があります。
写真は、院長が発見した、3mm大の除菌後胃癌です。
通常の内視鏡では病変部位がわかりづらいですが、NBI拡大観察をすると、領域をもった構造異型が確認でき、「微小がん」と診断できます。
スキルス胃がんとは③(胃内視鏡/胃カメラ)
この症例も、院長が発見した未分化型早期胃がんで、学会/論文発表に使用した症例です。
40代女性で、大きさ4mm大の、ピロリ菌陰性(ピロリ菌の感染がない)の方の、未分化型早期胃がんです。
内視鏡治療で治癒切除が得られました。
粘膜面の褪色変化で指摘できる病変で、NBI拡大観察(茶色と緑の写真)では、窩間部開大所見が認識され、良性変化である限局性萎縮のNBI拡大所見とは異なっています。このNBI所見から、ごくごく早期の未分化早期胃がんと診断できます。
このような症例は、バリウム検査や経鼻内視鏡では診断しきれず、経口のNBI併用拡大内視鏡を使用しなければ、その場での診断が不可能な病変です。
スキルス胃がんも、上記病変のような、ごく早期に発見できれば、生命に影響を及ぼさないうちに治癒切除させることができます。
スキルス胃がんとは②(胃内視鏡/胃カメラ)
前記しましたように、スキルス胃がんの多くは、未分化型早期胃がんからの進展ですが、発見するのが難しいのが現状です。特に、背景粘膜の炎症や萎縮程度が強い場合、早期病変の視認はさらに困難となります。
写真の例は、院長が発見した未分化型早期胃がんで、学会総会と英論文で発表/提示した症例です。
この症例は、大きさ8mm程度で、深達度が浅く、結果的に内視鏡治療のみで治癒切除が得られました。病変は、背景の炎症が強く、通常観察からは視認することが非常に難しい病変です。実際、内視鏡学会総会での発表時には、この病変のNBI拡大像(緑・茶色のアップの写真)に関する発表を行いましたが、
フロアの多くの先生方から、この病変はそもそも通常観察で存在を指摘することすらできないと意見されました。
このような胃がんは、比較的まれな胃炎様の未分化型胃がんですが、1年で数百という胃がんを取り扱っている、がん専門病院の専門医でないと、発見するのが非常に難しい病変です。
スキルス胃がんとは①(胃内視鏡/胃カメラ)
胃がんとは、胃液などを分泌する胃粘膜(胃壁の最も内側)の腺組織の細胞から発生するがんを言います。
胃がんのほとんどは、「腺がん」といわれるもので、がん細胞の分化度(顕微鏡の顔つき)により、大まかに分化型と未分化型に分けられます。一般的に、分化型は進行が緩やかで、未分化型はがん細胞の増殖が速いため、進行が速い傾向があるといわれています。検診で発見されるまで大きくなるには、がんが発生してから少なくとも数年は経っているとされています。
スキルス胃がんは、特殊なタイプの胃がんで、胃がんの中で最も悪性度が高く、5年生存率が7%未満というデータがあります。このタイプのがんは、がん細胞が胃の表面にでることなく、壁の中を染みこむように広がっていきます。そのため、相当程度に広がるまで症状が出ないうえに、がん発見のきっかけとなる胃粘膜表面の変化、特に粘膜の凹凸変化が不明瞭なことが多いため、バリウムや内視鏡検査でも、初期病変が見つけにくいという特徴があります。
スキルス胃がんに進展する胃がんは、未分化型胃がんからの進展が多いとされていますが、一部は分化型あるいは分化型と未分化型の混合型からも進展していくことがあります。一方、未分化型胃がんでも、初期病変/早期がんではスキルスとはならず、ある程度の大きさまで、がんは塊のまま一か所で増大し、ある程度の大きさを超えてしまってから、血液やリンパ液に乗って全身に飛び散るようになったり、染み込むような浸潤形式をとっていくようになります。
つまり、未分化型胃がんでも、ごく初期のうちに発見がなされれば、手術で胃を切らなくても、内視鏡治療のみで根治させることが可能です。具体的には、病変の大きさが2cm以下で、潰瘍病変を伴わないうちに発見がされれば、転移のリスクがほぼ0であるため、内視鏡治療で根治できる可能性があります。(つづく)
過敏性腸症候群とは③(大腸内視鏡/大腸カメラ)
この疾患の根本的な原因はまだよくわかっていませんが、心身に対するストレスなどが誘因となり、脳から腸にむかう信号(神経やホルモンを介した信号)と、腸から脳にむかう信号の両方が強くなっていることが確認されており、腸の知覚過敏のような状態が起きていることがわかっています。治療は、便秘型、下痢型などの症状に合わせて、薬を選択していく必要があります。
また、初診で過敏性腸症候群だという印象を持っていたとしても、大腸内視鏡(大腸カメラ)検査をしてみると、結果的に潰瘍性大腸炎や感染性腸炎などの他、甲状腺ホルモンの異常や糖尿病による胃腸の運動異常、大腸がんによる便狭小などと診断されるケースがありますので、本疾患の診断には大腸内視鏡(大腸カメラ)検査や採血検査を受けるなどして、他の病気をきちんと除外しておくことが必要です。
お腹の不調が長く続く場合には、自分で判断したり一人で悩んだりせずに、専門医とご相談されることをおすすめします。
過敏性腸症候群とは②(大腸内視鏡/大腸カメラ)
社会生活が排便状況によって制限されたり、トイレの場所ばかりに気を遣ったりする患者さんの場合、状態に応じて、治療で介入していく必要があります。
現在の世界的な診断基準は、Rome Ⅳ基準が用いられており、「最近3か月の間において、平均1週間に1回以上続く再発性の腹痛で、1排便に関係する、2排便頻度の変化と関連する、3便の形状(外観)の変化と関連する、のうち2つ以上認めるもの」と定義されています。
さらに、症状によって便秘型、下痢型、混合型、分類不能型などに亜分類されます。
10%くらいの方がこの疾患であるとされており、女性の方が多く、年齢とともに減少する傾向があります。(つづく)