ピロリ菌
ヘリコバクター・ピロリ菌(ピロリ菌)は、強酸の環境である胃粘膜に感染・生息する細菌で、らせん状の形状をしています。ピロリ菌は、ウレアーゼという酵素を作り出すことにより、周囲の酸を中和し、強酸の胃内でも生息することができます。ピロリ菌が胃粘膜に持続的に感染することによって、胃粘膜に慢性的な炎症が生じたり、遺伝子が傷つけられたりすることによって、胃炎や胃潰瘍、胃がんなどが起こされます。
感染は幼少期に起こるとされており、衛生状態が悪い環境で感染することが多く、人から人へ経口感染すると考えられています。そのため、慢性胃炎・胃がん・十二指腸がん・胃潰瘍・十二指腸潰瘍などを発症したご家族がいる場合には、ご自身もピロリ菌に感染している可能性があります。2013年2月より、上部消化管内視鏡検査(胃カメラ)で胃炎と診断されれば、ピロリ菌の感染診断および除菌治療を保険で行うことが可能になっています。除菌治療は、消化性潰瘍の再発予防効果があり、胃癌の発生確率を低下させることができるうえ、次世代への感染予防にもなりえることから、現在では感染者は基本的に除菌をするという国民皆除菌の傾向にあります。
検査方法
胃内視鏡検査(胃カメラ)中に組織を採取して行う検査と、それ以外のスクリーニング検査に分けられます。健康保険適用の除菌治療には、胃内視鏡検査による「内視鏡的な胃炎」の確定診断が必要です。
内視鏡を用いた検査法
迅速ウレアーゼ試験 | ピロリ菌の持つ酵素の働きで作り出されるアンモニアを調べて、ピロリ菌がいるかどうかを検査します |
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鏡検法 | 採取した組織を染色して顕微鏡で調べます。 |
培養法 | 採取した組織を培養してピロリ菌がいるか調べます。 |
内視鏡を使わずに行う検査法
尿素呼気試験 | お薬を服用して、吐き出された息からピロリ菌の感染を調べます。 |
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抗体測定 | 血液検査や尿検査でピロリ菌に対する体内の抗体があるかを調べます。 |
便中抗原測定 | 便の中に体内にピロリ菌の抗体があるかを調べます。 |
ピロリ菌が引き起こす病気
- 胃炎、十二指腸炎
- 機能性胃腸症
- 胃潰瘍、十二指腸潰瘍
- 胃がん
- 胃ポリープ
- 胃MALTリンパ腫
- 特発性血小板減少性紫斑病
- 慢性蕁麻疹
など
ピロリ菌に感染していると、胃や十二指腸の粘膜に持続的な炎症を起こり、傷が深くなると時に潰瘍になります。ピロリ菌感染があるとこうした胃や十二指腸疾患を再発させやすいのですが、除菌治療によって再発が抑制され、胃がんリスクを軽減できます。またピロリ感染胃炎では、胃の痛みやもたれなどを伴うことがあり、除菌により改善することがあります(H. pylori感染関連ディスペプシア)。炎症や潰瘍をしっかり治し、除菌治療により再発を抑制して胃がん予防につなげましょう。
ピロリ菌と胃がん
ピロリ菌感染が胃がん発症に深く関係しており、除菌治療が胃がん予防に一定の効果があることが世界各国の研究によって明らかになってきています。除菌によって組織学的な胃炎は改善傾向を示しますが、萎縮・腸上皮化生は長期にわたり残存するため、胃がんを発症するケースがあることから、1年に1度の定期的な内視鏡検査(胃カメラ)を受けることが必要です。早期のうちにがんを発見できれば、内視鏡による切除で根治させることが可能です。
除菌治療でリスクを下げ、定期的な内視鏡検査で健康とQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を保っていくことが大切です。
ピロリ菌の治療
ピロリ菌の除菌治療は薬を1週間服用するだけです。服用するのは、抗生剤2種類、そして胃酸分泌を抑える薬です。胃酸抑制剤は抗生剤の効果を発揮しやすいよう胃の環境を整える役割を持っています。
初回除菌治療の成功率は約90%です。正確な除菌判定のために、薬の服用から1か月以上の経過を目安に判定検査を行います。除菌に失敗した場合、抗生剤を変更して2回目の除菌治療が可能です。初回と2回目を合わせた除菌の成功率は約99%です。
除菌後に肥満や脂質異常症などの生活習慣病が出現することがあるので、そのような生活指導も行います。
除菌治療の際の副作用について
主な副作用として軟便・下痢(10~30%)・嘔気・味覚障害(2~5%)・皮疹(1~2%)などが起こることがありますが、皮疹を除きほとんどは服薬終了後に改善します。軟便・下痢についてはプロバイオティクス製剤を併用すると、ある程度予防が可能になります。必要服用後にも症状が続く場合には、医師にご連絡ください。
また、ピロリ菌除菌に成功すると、約10%の方に一時的に胸やけや胃もたれなど逆流性食道炎の症状が起こることがあります。これは胃炎が改善し、胃粘膜が回復するに従って、胃酸分泌が回復することにより生じるのですが、軽い症状で一過性のことが多く治療を要さないケースがほとんどです。除菌後の再感染率は、年率1%以下と言われています。
除菌失敗例について
当院では自費になりますが3次除菌に対応しております。また自己免疫性胃炎(AIG)では呼気試験が偽陽性になることがあります。そのため、2回以上の除菌不成功例においては自己免疫性胃炎が多数例含まれていることが報告されており鑑別を要します。そもそもピロリ菌による萎縮性胃炎とAIGの合併例では、内視鏡からAIGの合併を推定することが難しい場合があります。自己免疫性胃炎には根治的な治療法がないため、対症療法が主体となります。鉄・ビタミンB12・葉酸の補充療法を検討し、胃癌や神経内分泌腫瘍の高危険群であるため定期的な内視鏡検査(胃カメラ)を行っています。