逆流性食道炎について
胃と食道の間には逆流を防止する機能を持った括約筋がありますが、この機能がうまく働かずに胃酸やそれを含む内容物が食道に逆流すると胃食道逆流症をおこすことがあります。繰り返し逆流を起こしたり、逆流を素早く戻す蠕動運動がうまく働かなかったりすると、食道粘膜が胃酸によって炎症を起こす逆流性食道炎を発症します。
逆流性食道炎は、食の欧米化や高齢化、Helicobacter pylori感染者の減少(除菌治療の普及)、日本人の胃酸分泌能の上昇、逆流性食道炎という疾患概念の浸透などにより以前よりも患者数が増加しています。日本における有病率は約 10%程度と推定されている一方で、逆流性食道炎の症状をもつ有訴者率につ
いては18%という報告があります。逆流性食道炎の症状には、胸やけやゲップ、酸っぱいものが上がってくる(呑酸)、胸やみぞおちの痛み、のどのつかえや詰まった感じ、慢性的な咳などがあります。いったん薬でよくなっても、症状は繰り返しやすく、慢性化するとバレット食道や、それに伴う食道がん(腺癌)のリスクが上がるため、症状がありましたら消化器専門医を必ず受診してください。
症状
みぞおちから胸のあたりの不快感がある胸やけが最も多い症状です。熱くなる・焼けつくようという感覚があり、痛みや喉が詰まったように感じることもあります。他にも声の枯れやかすれ、喉の違和感、咳など逆流性食道炎は多彩な症状を起こすケースが多くなっています。前かがみ・横になった際や、腹圧がかかると増悪することがあるため、背中の丸まった高齢者や肥満者に多くみられます。主な症状は以下のようになります。
- 呑酸、ゲップ
- 胸痛
- 胃もたれ
- 喉枯れ、喉の違和感、喉の痛み
- つかえ感
- 咳
逆流性食道炎によって、顕著な食道運動障害と顕著なつかえが発生する場合があります。アカラシアやびまん性食道痙攣などの蠕動機能障害とは異なり、酸分泌抑制薬で症状・所見が改善します。
<逆流性食道炎に伴う蠕動障害>
逆流を起こす原因
下部食道括約筋の弛緩
胃と食道の間には下部食道括約筋(LES)という筋肉が締め付けて逆流を防いでいます。加齢などによってLESが弱くなると逆流を起こしやすくなります。
食道裂孔のゆるみ(食道裂孔ヘルニア)
胸部と腹部は横隔膜によって隔てられていて、食道は腹部にある胃とつながっており、横隔膜にある食道の通り道を食道裂孔といいます。食道裂孔では横隔膜や食道の括約筋などが胃から食道への逆流を防ぐ役割を担っていますが、加齢などにより次第にゆるんでしまい、胃が正常な位置から変移して、胃腸管が食道裂孔から胸腔内や後縦隔内に脱出した状態である「食道裂孔ヘルニア」を起こすことがあります。大部分は検診などで発見され無症状ですが、逆流性食道炎の重要な危険因子となります。食道裂孔ヘルニアの大部分は滑脱型で、他に傍食道型、混合型、巨大型などがあります。
胃へ圧力が加わる
肥満や妊娠などでも胃に圧力がかかります。また、ベルトをきつく締める、前かがみの姿勢なども腹圧を高めて、胃酸逆流を起こしやすくします。
消化管の排出能(運動能)が低下している
胃炎や潰瘍、機能性胃腸症などにより胃の運動能が低下したり、胃の大きなポリープ、胃がん、十二指腸潰瘍(あるいは瘢痕)などにより、幽門(胃の出口)や十二指腸などが塞がれると、胃内の圧力が高まり、逆流が誘発されることがあります。 また、胃の手術後で外科的に神経の一部が切断されている方は、胃の運動機能が低下したり、残った胃のつながれ方によって運動の不調和をおこしたり、胆汁の逆流がおこったりするために、残胃内に食べ物が長く停滞し、逆流性食道炎がおこることがあります。 その他、全身性強皮症やシェーグレン症候群などの膠原病にも、蠕動異常に起因する逆流性食道炎が合併することがあります。
逆流性食道炎の検査
バリウムを用いた造影検査でもある程度確認できますが、しっかりした診断には色調変化などが直接視認できる内視鏡検査(胃カメラ)が必要です。
食道粘膜傷害の内視鏡的重症度から、一般にはロサンゼルス分類によるgrade分類が用いられますが、大まかには、NERD(非びらん性逆流性食道炎)、軽症逆流性食道炎、重症逆流性食道炎に分類します。
症状のみでは間違えやすい疾患は以下のようなものがありますが、これらとの鑑別にも胃カメラ検査が非常に重要になります。
- カンジダ食道炎
- 好酸球性食道炎
- 薬剤起因性食道炎
- 外傷性食道炎
- 食道運動障害
治療法
治療の目標は、症状をコントロールして生活の質を改善することと、出血・狭窄などの合併症を予防することで、胃酸分泌を抑える薬物療法と生活習慣改善の治療を行います。
症状は、薬物療法により比較的短期間での改善が期待できますが、再発しやすいため、生活習慣を改善することがとても重要です。またバレット食道を伴う場合、それ自体への積極的な治療は不要ですが、発癌リスクがあるため経過観察が必要になります。
薬物療法
主たる原因である胃酸の分泌をコントロールすることにより、炎症を抑えて症状を軽減させます。
胃食道逆流症(GERD)診療ガイドライン2021では、軽症逆流性食道炎の初期治療として、プロトンポンプ阻害薬(PPI)とカリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB;ボノプラザン)が第1選択薬として推奨されており、重症逆流性食道炎には、ボノプラザン20mg/日の4週間投与が提案されています。
初期治療後の評価により長期治療を要する症例には、PPIまたはP-CABによる維持療法を行います。軽症では最小限の用量での使用やオンデマンド療法などを検討し、ガイドラインではPPIが推奨、P-CABが提案となっていて、重症では合併症予防の観点から内視鏡的再燃率が低いボノプラザン10mg/日での維持療法が提案されています。
場合によって、胃や腸の蠕動運動を改善させる薬(消化管運動促進薬)や粘膜保護剤、漢方薬などを併用します。再燃が多いため、医師の指示に従ってきちんと薬を服用して頂く必要があります。消化管の閉塞などの器質病変がある場合には、原疾患の治療も併行しておこなう必要があります。
生活習慣改善
胃酸が過剰に出てしまわない食生活が重要です。症状がある間は、低脂肪食を心がけ、刺激の強いものや甘いものを控えて、飲酒や喫煙を極力避けるようにします。低脂肪食は胃酸の出過ぎを抑えるだけでなく肥満解消になり、逆流を起こしやすくする腹圧を軽減するためにも役立ちます。
腹圧軽減には、猫背など前かがみの姿勢をできるだけとらない、ベルトなどで締め付けない、重いものを持つことをできるだけ避けるなども重要です。妊娠している場合、特に腹圧が上がりやすいので、症状が出やすくなります。また、便秘も腹圧を上げてしまうため、適度な運動や食物繊維と水分を積極的にとるなどして解消するようにしてください。食後すぐに横にならない、睡眠時には上半身を少し高くすることなども症状緩和や再発予防に役立ちます。
適切な治療を行ったにもかかわらず、治療抵抗性を示す難治症例では、専門施設において病態評価のための24時間食道インピーダンス・pHモニタリング検査や高解像度食道内圧測定などの食道機能の精査を検討します。
その他の食道炎について
好酸球性食道炎
食道には逆流性食道炎以外にも食道炎が発生することがありますが、その中でも好酸球性食道炎は比較的よく遭遇する疾患です。何らかの抗原に対する反応のために、食道上皮に好酸球(白血球の一種)が浸潤し引き起こされる慢性アレルギー疾患と考えられています。
主な症状は食物のつまり感、つかえ感、胸やけなどで、特に何も食事をしていない時につかえている感じがする、つまっている感じが残ると訴える方が多い印象です。最近では有病率が増加しており、比較的若い年齢の男性に多いとされています。
内視鏡では、輪状溝、白斑、縦走溝が特徴的ですが、重症例では食道が狭窄する場合もあります。診断には内視鏡検査につづく病理組織が重要になります。
カンジダ食道炎/食道カンジダ症
<食道カンジダ症>
薬剤起因性食道炎
<ビタミンCサプリによる停滞性食道炎>
外傷性食道炎
<たこやきによる食道熱傷>
食道蠕動運動障害
<強皮症による蠕動障害、逆流性食道炎>
<食道アカラシア>
食道の拡張所見と食道内の残渣の所見、esophageal rosette とされる食道胃接合部のひだ所見が診断に有用とされています。